2024/05/12 男子の悩みに「ペニスの大きさ」を投稿いたしました

精巣がんは自己触診できます

 国立がん研究センターが先月、15~39歳の思春期・若年成人世代のがんの統計を初めて発表しました。この世代の男性に精巣(睾丸(こうがん))がんが多いことが示されています。これを見て、三十数年前、私が医師になり病院で研修を始めた初日のことを思い出しました。

 福岡大病院の裏に住んでいた私はその日の夜、泌尿器科病棟から呼び出されました。理由は、20歳の精巣がんの患者さんの蘇生術が行われており、その手伝いをするためです。その頃読み終えた、渡辺淳一さんの医療小説の短編「少女の死ぬ時」には、虫かごのキリギリスが鳴いたのを合図に医師たちが心臓マッサージを止めるまでの会話が描かれていました。それと同じ状況を想像しながら、まるで小説の登場人物になったかのような気分で駆け付けましたが、初めて経験する緊迫した場面に、そんな気持ちは吹っ飛びました。

 「心臓マッサージをしている間は生きていらっしゃいます」と家族に説明し、患者さんのお父さんとお兄さんが到着されるまでの約4時間、主治医と当直医と私でひたすら蘇生術を行いました。

 この患者さんは、泌尿器科を受診する6カ月前から片方の精巣が大きくなっていることに気付いていました。でも、痛くもないし、恥ずかしいからと誰にも相談していませんでした。やがて一層大きくなり、いよいよ心配になって受診したときには、がんがあちこちに転移してしまっていたのです。

 お父さんたちが到着されてから、主治医の合図で蘇生術の手を止めました。そして、脈を確認する最後の儀式を、私は身じろぎもせず、無言で見つめていました。

 精巣がんは若い世代に多い病気です。幸い精巣は陰嚢(いんのう)の中にあり、自分で触れることができます。お風呂で洗う時は清潔にするだけではなく、普段から精巣の大きさや硬さを確認するように心掛けてください。

 もし左右の大きさの違いや硬いしこりに気付いたときは、恥ずかしがらず、なるべく早く泌尿器科を受診しましょう。精巣がんは自己触診で発見できます。そして、早期治療で完治できる病気です。

(寄稿:2018/06/18付 西日本新聞朝刊)

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