2024/05/20 思春期に「思春期までに・・・」を投稿いたしました

有性生殖の意味

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有性生殖

地球上の多くの生物は,有性生殖という,性の異なる二種類の生殖細胞の融合,精子と卵子の受精で命をつないでいます

有性生殖の特徴は,繁殖スピードが遅いことです。ヒトでいえば,妊娠出産のサイクルに約1年が必要です。細胞分裂や出芽(小芽または小突起が次第に大きくなって独立し,新個体を形成する)で個体数を増やす無性生殖と比べれば,長い時間が必要です。また,有性生殖は異性のパートナーを探し出して,交尾(性交)しなければならないという手間もかかります。とくに交尾(性交)は無防備な状態で行わなければならず,これは命を狙ってくる天敵がたくさんいる自然界で懸命に生きる動物にしてみれば,とても危険な行為になります。このように,性別を必要としない無性生殖と比べて多くの手間と危険を伴い,効率が悪い不利な方法でありながら,多くの生物はなぜ有性生殖で命をつないでいるのでしょうか。

有性生殖の一番の特徴は,子の遺伝子の組み合わせを変更できるということです。無性生殖の場合,子は親とまったく同じ遺伝子を受け継ぐので,それぞれの個体は同じ遺伝子をもち,同じ性質,同じ体質です。環境がその種の生存に適しているうちはよいのですが,環境が急変して不利な状況になったとき,一気に全滅する危険性があります。一方,有性生殖の場合は,子は両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぎ,親と異なる遺伝子の組み合わせになります。そのため,それぞれの個体は,親とは必ず違う性質,体質をもつことになります。いろいろな性質,体質がいれば,もし環境の変化が起こっても,対応できる体質をもつものは生き延びて,全滅する危険性が少なくなります

有性生殖
  • 性の異なる二種類の細胞の融合を伴う生殖方法
    • 配偶子:卵・精子
    • 融合:受精
  • 繁殖スピードが遅い
  • コストがかかる
    • 異性を探す
    • 無防備な性交(交尾)をする
  • 遺伝子の組み換えが起こり、生物に多様性を生み、進化をもたらす

生物を取り巻く環境は絶えず変化しています。気候,日照,温度,湿度などの物理的な環境はもちろんですが,もっとも環境に変化をもたらすものは寄生虫,ウイルス,細菌などの寄生者です。例えばエイズは比較的新しい病気で,多くの人を死に至らしめた怖い病気です。けれども,たびたびエイズウイルス(HIV)にさらされながら感染を免れてきた幸運な人たちが存在しています。この人たちのエイズに対する抵抗力は,エイズが登場するよりもはるか以前に獲得した遺伝子の働きによるものであることが分かってきています。

また,ジャガイモのふるさとアンデス地方では,主食として多種多様なジャガイモが作られています。高地で環境の厳しい土地ですから,1品種だけだとその年の天候によっては収穫できないかもしれません。その危険性対策として,多品種の苗を植えるのだそうです。

このように,生物が生き残っていくためには絶えず遺伝子の組み合わせを変えながら,取り巻く環境の変化に対応する準備をしておく必要があります。これが有性生殖の意義だと考えられています。この考え方は,不思議の国のアリスに出てくるトランプの赤の女王の台詞「この国じゃね,同じところにとどまってるにも,力いっぱい走り続けなければならないのよ」になぞらえて,“赤の女王仮説”と呼ばれています。

染色体

DNA(ディーエヌエー,デキオキシリボ核酸)は,生物を形作り,生物が生きていくために必要な遺伝情報を担っています。このDNAが,特殊なタンパク質と一緒に折りたたまれたものが染色体です。染色体は普通2本1組で細胞の核の中にあり,その数は生物の種類ごとに決まっています。ヒトの染色体は23組,46本です。このうちの1組,2本の染色体を性染色体といい,この性染色体がその人が男性になるか女性になるかを決めています。通常染色体構成は,男性では”46,XY”,女性では”46,XX”(染色体の総数と性染色体の組み合わせ内容)と表現されます。

男性の生殖細胞である精子は,23Xと23Yの染色体をもつ2種類がつくられ,女性の生殖細胞である卵子は23Xの染色体をもつものがつくられます。つまり精子は父親の遺伝子の半分をもっており,卵子は母親の遺伝子の半分をもっていることになります。そして,23Xの染色体をもつ精子と卵子が受精すれば46XXの組み合わせで女性となり,23Yの染色体をもつ精子と卵子が受精すれば46XYの組み合わせで男性になります。このように新しい命は父親と母親の遺伝子を半分ずつ受け継いでいます。

染色体

44個の常染色体と性染色体”X”または”Y”という入れ物に遺伝子DNAが分け入れられている

DNAは体の設計図

父親から、23個(22個+Y)、または23個(22個+X)

母親から、23個(22個+X)

命のつながり

みなさんは,「この部分はお父さんに似ている」,「ここはお母さんに似ている」とか,「性格がお父さんにそっくり」とか言われたことがあるでしょう。また兄弟姉妹がいる人は,「お兄さんにそっくりだね」,「姉妹そっくりよね」と言われたことがあるかもしれません。家族内では似ていることをよく強調されます。けれども,有性生殖の意義から言い換えると,お父さんやお母さんに似ているけれど,お父さんやお母さんとは絶対に違う体質,性質を持って生まれてきていることになります。兄弟姉妹間でも同じように違います。有性生殖でつながれた命は,それぞれが違うということです。みなさんの周りを見て下さい。背が高い人,低い人,色が白い人,黒い人,歌をうまく歌える人,絵を上手に描ける人,走って速い人,数学が得意な人,いろいろな人がいるはずです。

人を評価するとき,確かに一つの断面で比べれば優劣をつけることができます。しかし,それは,その人のほんの一部分に限定した評価です。何かを行うとき,スムーズにできる人もいれば,時間がかかる人もいます。あるものに対する価値観も違ってきます。身体的特徴も様々です。そのような差を見て,「ダサい」とか,「とろい」とか,「キモい」などの言葉で攻撃してはいませんか。もし,自分が引き継いでいる利点に気づいたならば,それを攻撃の道具に使うのではなくて,どうやったらまわりの人の為に生かすことができるのかを考えられるようになってもらいたいと思います。

また、まだ自分自身の良いところに気づいていない人は、いろいろなことに挑戦してみてください。きっと自分の特徴が見つかるはずです。

なぜ、このような多様性をつくる命のつなぎ方をしているのでしょうか?例えば、日本の夏の気温が40℃をこえるようになったとしたら、日本人が同じ性質体質であれば、全員が熱中症で倒れてしまうかもしれません。しかし、性質体質が違えば、40℃の気温でも熱中症になりにくい人が必ずいるはずです。その人たちは、熱中症でぐったりしている人に「大丈夫?」と声をかけ、水を飲ませることができます。

大きな気候変動や新たな感染症が流行するとき、それを乗り越えられるかどうかは、その時でなければ分かりません。地球の大きな寿命に比べれば、人の寿命は約100年。自分の本当の特徴を分からずに一生を終える人がほとんどです。誰が助ける人なのか助けられる人なのか分からないのです。だから、いろいろな人が周りにいた方が良いのです。

ヒトの染色体が仮に4個として、染色体の伝わり方を簡素化して図示

仮に人の染色体数を4個と仮定すると、子は父親、母親からそれぞれ染色体の1を1個、2を1個を受け継ぎ、計4個の染色体で命が作られます。それぞれの染色体の性質体質の違いを色で表しています。子の染色体の色の組み合わせを見ると、それぞれの親と半分は同じで、半分は違います。兄弟姉妹も色の組み合わせが違うので、性質体質が違います。染色体(遺伝子)がいろいろな組み合わせで命がつながれていることがご理解いただけると思います。

有性生殖の意味
  • 有性生殖は遺伝子に多様性をもたらす命のつなぎ方
  • いろいろな人がいて当たり前の命のつなぎ方
  • 競争をすれば、1番からビリまで順番のつく命のつなぎ方
  • 人と比べれば、良い悪いの差が出る命のつなぎ方
  • 一人の中には、必ず良いところ悪いところがある命のつなぎ方
  • 有性生殖の多様性、人との違いは、誰かが誰かを助けるため

生物を形作り,生物が生きていくために必要な遺伝情報を担っているDNAは,命の設計図です。そして,みなさんの体は,お父さんから受け継いだ23本の染色体に納められた命の設計図とお母さんから受け継いだ23本の染色体に納められた命の設計図でつくられています。お父さんの命は,お父さんのお父さん,お母さんの設計図を半分ずつ,お母さんの命も,お母さんのお父さん,お母さんの設計図を半分ずつもらっているわけですから,みなさんのなかには,お父さん方のおじいちゃん,おばあちゃん,それから,お母さん方のおじいちゃん,おばあちゃんの命も,それぞれ4分の一ずつ入っているのです。そうやって遡っていけば,命というものは今まで命をつないでくれた多くの人の命でつくられていることになります。決してちっぽけなものではありません。

みのDr

命の尊さは、ひとつの命が今までつないでくれた多くの人の命の組み合わせでできているから

もし,誰かがある人の命を殺したら,その人だけが死ぬのではなく,今まで命をつないでくれた人すべての命が死んでしまうのと同じことです。だから,たったひとつの命でも,多くの人の命でつくられているからこそ,尊く大切なものといわれるのです。もちろん,自分の命が尊いように,他人の命も等しく尊いものです。自分の身勝手から人の命を傷つけたり,自らの命を絶つようなことは決してしないようにしてください。命に対する責任は,死ぬまで生きることです。そして,もし人の命を傷つけるようなことがあれば,言うまでもなく当然それ相応の償いが必要になります。

みのDr

みなさんの命は,多くの命をつないでもらった結果の一つです。皆それぞれ違うように生まれてきて,それぞれが尊重されるものであるということを忘れないようにしてください。

高校生

ぼくが一番心に残ったことは,人が有性生殖をするのは命を多様にして様々な人が生まれてくるからということです。
いろいろな長所や短所を持った人がいることで,その人の長所が別の人の短所を助けることができるという点が凄く良いなと思いました。
自分に無いものを持っている人をうらやましがったり,ねたんだりするのではなく,その人がいつか自分を助けてくれるかもしれないんだという気持ちを持ちたいと思いました。
また,自分の長所が他の人をどのように助けることができるのか考えようと思いました。

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