「ひろみ、頑張ってえ~」。振り返ると、白いキャップに白い上下の郷ひろみさん。ダイヤモンドヘッドを過ぎた15キロ地点で、私をさっそうと追い抜いていきました。時は1985年。初マラソンのホノルルは、郷さんに35分遅れてフィニッシュ。以来、夜の中洲では「郷ひろみに負けた男」と呼ばれていました。
あれから33年、世の中は空前のマラソンブーム。各地で大会が催されています。メタボ健診で運動を勧められて始めた人も多いかもしれません。有酸素運動を続けると内臓脂肪が減り、心臓や肺の働きがアップします。高血糖、脂質異常、高血圧、動脈硬化の予防・改善につながります。適度な運動は寿命を延ばします。でもあくまで「適度なら」です。
スローペースでも完走を経験すると、記録を狙いたくなるものです。練習量を増やすとそれなりに記録も伸びますが、一定のレベルを過ぎるとあまり伸びず、逆に体調が悪くなる人がいます。これはなぜでしょう。
市民ランナーを多く診察した医師の調査では、男性の場合、月間走行距離が120~150キロの人がテストステロン(男性ホルモンの一つ)値は最も高く、200キロ以上走る人はかなり低くなっていました。適度な運動でテストステロンは増えますが、激しい運動を続けると減少してしまうのです。
テストステロンが下がると力が出ません。不眠、性欲低下、意欲低下などを引き起こし、大会ではけがをしたり、心臓発作を起こしたりとトラブルの恐れが生じます。健康のためのはずが逆効果です。
中高年男性ランナーのみなさん。練習は月に150キロまで。頑張りすぎないようにしてください。フルマラソンの後はテストステロンが下がります。回復するのに2~3カ月。次の大会まで3カ月は空けましょう。
当時の私は月に280キロ、今はせいぜい100キロ。アラ還(還暦前後)にはちょうど良い量ですが、これでは郷さんの記録に届きそうにありません。今後も「負けた男」のままいこうと思います。
(寄稿:2018/11/19付 西日本新聞朝刊)
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