「性の好みは人それぞれ。他人からとやかく言われる筋合いはない」。そう思っている人がいるかもしれません。1人で楽しむだけならいいですが、周囲に迷惑が掛かった時点で、それは性暴力行為になります。
「このままでは人生を棒に振りそうです。なんとかならないでしょうか」
そう言って相談に訪れた男子大学院生は、中学の時から繰り返していたのぞきで2回、警察沙汰になっていました。ちょっとやそっと注意されたくらいではやめられません。のぞいて満足した後は、いっとき「またやってしまった」と後悔するのですが、のぞきたい衝動が起これば、反省など忘れて繰り返してしまうのです。
逸脱した(偏った)性の好みに端を発した悲しい出来事は後を絶ちません。今年5月に新潟市で起きた小2女児殺害事件でも、被告には女子中学生を車で連れ回したとして書類送検された過去がありました。
米国では「性暴力を犯す者を放っておけば、380人の被害者が出る」といわれています。逮捕されたときには、すでに何人も被害者がいることは珍しくないのです。暴力のレベルがエスカレートすることもあります。被害者は一生消えない傷を心身に負います。せめてこれ以上、被害者を生まないために、再発防止がとても重要になります。
そこで大学院生に偏った性欲を抑える薬と男性ホルモン(テストステロン)を低下させる薬の内服治療をしました。のぞきたい欲求が起きなくなり、衝動に振り回されなくなった彼は「すがすがしい気分だ」と表現しました。本人も自分の性癖に困っていたのです。このような性欲のコントロールも泌尿器科医の守備範囲です。
今年のノーベル平和賞は、性暴力の被害者治療や啓発に取り組む医師と活動家に贈られました。被害者の救済はもちろん大切。そして、加害者を出さないことも同様に大切なのです。
性暴力をなくすために、医療が加害者を止められる可能性を持っていることを知ってほしいと思います。
(寄稿:2018/10/29付 西日本新聞朝刊)
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