膀胱炎の予防 排尿はお早めに
膀胱に少しぐらい細菌が入ったからといって,すぐに膀胱炎になるというわけではありません。膀胱の内側,粘膜は細菌に対する防御機能を持っています。ところが,細菌が侵入した状態で長時間排尿を我慢したときや,風邪や疲労などで全身の抵抗力が低下したときに細菌が侵入すれば,急に膀胱炎を発症することになります。
膀胱の壁は血液が十分に流れることで感染に対する防御機能を高めています。しかし,長時間排尿を我慢すれば,多量の尿で膀胱が大きく膨らみ,膀胱の壁は引き延ばされてうすくなります。そうなると膀胱の壁の血管も引き延ばされて細くなり,血液の流れが少なくなって膀胱の感染防御機能が低下してしまいます。
さらに,私たちは排尿することで膀胱の中を洗い流しています。長時間排尿を我慢すれば,侵入した細菌がどんどん,倍々と数を増やしていきますので,そんな状態で排尿しても,十分に細菌を洗い流すことができず,膀胱粘膜に付着した細菌によって膀胱炎が引き起こされてしまいます。
膀胱炎の予防には、排尿を我慢しすぎないことが一番です。
膀胱炎の診断 パンツを脱がなくても膀胱炎の診断はできます
女性を悩ます膀胱炎は,急に発症します。我慢せず、泌尿器科を受診して下さい。膀胱炎は泌尿器科の救急疾患です。
診察では,しっかりと症状を聞き,尿検査を行います。そして,排尿痛と頻尿があり,尿が混濁していれば,体に触れることなく,膀胱炎と診断ができます。パンツを脱いでいただく必要はありません。
ただ,このような診察では,「たったこれだけ?」,「診なくて分かるの?」,「何をされるのか,どんな検査があるのかと緊張してきたのに・・・」のように,あっけないとお感じになるかもしれません。そこで,期待に少しだけお応えするために,ベッドに横になっていただき,パンツを陰毛が見えるか見えないか程度に下げて,下腹部から超音波検査を行います。もちろん,私が下げるのではありません。女性看護師がパンツに触ります。
この検査で,残尿があるかないか(膀胱のはたらき),膀胱内に結石や腫瘍がないか,など,膀胱炎を引き起こすような病気が隠れていないかを,おおよそ確認します。
こうして膀胱炎と診断が付いたら,多めの水分摂取と排尿(痛くてもがまんせずに排尿しましょう),それから,抗生剤・抗菌剤の薬を飲めば,通常は3~5日で完治します。
真っ赤な尿を見てびっくりする人も多いのですが,膀胱炎のときは血液みたいな尿が出ることはよくあることですから,ご心配なく。
膀胱炎の春夏秋冬,その他いろいろ
膀胱炎の予防は
- 細菌の侵入をできる限りさせない
- 全身状態を良好に保ち,体の抵抗力を低下させない
- 尿量を確保し,自分の尿で膀胱内を洗い流す
- 膀胱に尿を過度に溜めないようにする(排尿を我慢しすぎない)
夏になれば,多量の汗をかいて体の水分量が減少するので,1日の尿量は少なくなります。みなさん,夏は排尿間隔が遠くなることを経験されていると思います。そうなれば,自分の尿で膀胱内を洗い流すことが十分にできません。また,排尿しようと思うほどに尿が溜まるには時間がかかりますから,その間侵入した細菌がどんどん増加します。
そして,夏に膀胱炎を起こします
冬になれば,汗をかかない分,1日の尿量が多くなります。みなさん,冬は排尿間隔が近くなることを経験されていると思います。膀胱はすぐに尿でいっぱいになります。とくに夜は寒いので,より我慢しがちになります。そうすれば,多量の尿で膀胱の壁が引き延ばされ,膀胱の血管も細くなって,血液の流れが少なくなります。血液の流れが少なくなれば,膀胱の感染防御機能が弱くなるのです。また,体の冷え,とくに下半身の冷えはますます血管を細くします。
そして,冬に膀胱炎を起こします。
仕事柄トイレに行きたいと思ってもすぐには行けない人がいます。そんな人は,どうしても排尿を我慢しがちになり,いつも膀胱壁が過度に引き延ばされた状態です。
そして,春夏秋冬膀胱炎を起こします。
職業柄膀胱炎になりやすい代表として,Beautician’s cystitis(美容師膀胱炎),Nurse’s cystitis(看護婦膀胱炎)と呼ばれることがあります。どちらも,尿意があるからといってもすぐに手が離せないお仕事です。
結婚式・披露宴は人生一番の晴れ舞台。気分が高揚しているので疲れを感じていないようでも,体力的にはかなり疲労しています。引き続き新婚旅行。性行為も膀胱炎のきっかけを作ります。新婚旅行中には膀胱炎になる人が多いので,Honeymoon cystitis(新婚旅行膀胱炎)と呼ばれています。
性行為の後のまどろみ,気持ちいいですよねぇ。でも,ちょっとご用心。性行為で肛門周囲の大腸菌が尿道口周囲に広げられます。さらに,性行為の後,そのまま,とろとろとしてしまうと,下腹部が冷えてしまいます。目を覚ましてトイレに行くと,排尿痛,残尿感が出現。ガーン! 膀胱炎。
もし,性行為の後に膀胱炎を起こしやすい人は,まどろむ前に,まず排尿を。そして,まどろむ時は下腹部が冷えないように。
泌尿器科には予防の秘策があります。お困りの方はご相談を
膀胱炎が治らないんです
時々,「他の病院で膀胱炎と言われて薬をもらったが,なかなか治らない」と受診される人がいます。
膀胱炎は尿道より膀胱へ細菌が侵入し,膀胱内で炎症を起こす病気です。一口に膀胱炎といっても,侵入した細菌の種類によってどの薬が有効なのかが変わってきます。膀胱炎を引き起こす細菌の80%前後は大腸菌なので,まず大腸菌に効く薬を5日間飲んでもらいます。ほとんどの人は,その1回目の薬で治ってしまいます。
ただ,大腸菌以外の細菌が原因であったり,また,近頃は大腸菌でも薬が効きにくいタイプのものがいます。そこで,初診時には尿で膀胱炎の原因菌を調べ,どんな薬が効くのかを検査します。その結果が出るのが5~7日後です。
もし,1回目の薬を飲んでしまっても治らなければ,次の受診時には,ちょうど菌の種類とどんな薬が効くのかが分かっています。そこで,その結果にあわせて薬の変更を行えば膀胱炎が完治するということになります。
他の病院で膀胱炎と言われて薬をもらったが治らない人には,「どんな薬を飲んでいましたか?」と尋ねます。そして,「この薬で治らなければ,こっちだったら治るかも」と心の中で思いながら,違う薬を出しています。もし,その薬で完治すれば,「先生,すごい」と思ってもらえるかもしれませんが,それは,たまたまこちらの薬が原因菌に有効だったというだけです。1回目の薬が効かなかったという情報がある分,2回目に診る方が有利なのです。
大切なことは,1回目の薬で治らない場合,検査結果に従って,膀胱炎の原因菌に有効な薬に変えてもらうことです(検査結果がなければ勘に頼った薬の変更になるので,3回目,4回目の変更をしなければならなくなるかも・・・)。
もし,膀胱炎の治りが悪くても,2回目までは同じ医療機関を受診しましょう(抗生剤・抗菌剤を飲んでいると,次の医療機関では原因菌を調べることが難しくなります)。
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