「包茎は不潔である,女性に嫌われる,結婚できない,だから手術して自身みなぎる男にチェンジ!」
みなさんが読んでいる週刊誌などに掲載されている包茎手術を勧める広告記事を目にして,ひそかに心配している人が多いのではないでしょうか。活字で示されると,すべてがもっともらしく思えて,信じてしまいそうです。
そこで,みなさんが気にしている包茎とは,そもそもどういった状態なのか,ご説明します。
包茎の医学的な解釈
ペニスの先端の亀頭には皮下組織がなく,皮膚は下層の海綿体に連続しています。海綿体はスポンジ状の構造をしており,勃起時に多量の血液が流れ込んで大きくなります。ただ亀頭海綿体は,勃起をしても陰茎海綿体のようには硬くはなりません。それは性交時に亀頭が膣壁にフィットするとともに,硬い陰茎の衝撃をクッションとして和らげ,膣を傷つけないようにするためです。触ってみるとおわかりになるように,亀頭の皮膚は非常に薄く,他の皮膚と比べデリケートです。
そんな大切な役目を持った亀頭が傷つくと,連続している下層の海綿体まで傷つきます。そうなると大量出血が起きたり、海綿体に菌が侵入するかもしれません。だから,大切な役目を持った亀頭が傷つかないように,包皮という動きやすい皮膚で包まれているのです。
包茎は,医学的にはこの亀頭が包皮に覆われたままで露出不可能ないし露出に問題を伴う状態をいいます。
陰茎包皮は,亀頭を包むようにして先端の包皮輪または包皮口と呼ばれる部分で折り返しており,亀頭と接する内側は内板,外から見える外側は外板と呼ばれています。包皮を指で陰茎の根元側へ引き寄せると,包皮内板がめくれて外板に続く状態で内板が外向きになり,内板の折り返しが徐々に下方へ移動してきます。最終的に,折り返しは消失し,陰茎体部と亀頭の境目につながる内板が完全に外向きになって,亀頭がすべて露出します。包皮を引き寄せた指を外すと,内板は反転して折り返しを形成し,その折り返しが先端の方へ移動してながら内板は内側に隠れていき,包皮が亀頭を覆うようになります。このような包皮の移動はスムーズに行われるのが通常ですが,それがスムーズに行えず,包皮を反転して陰茎の亀頭が露出できない,またはできにくい状態が包茎です。みなさんが気にしている皮かぶり状態,例えば包皮の折り返しの位置が亀頭の途中にあり亀頭の先端しか見えない状態でも,折り返した包皮で完全に亀頭が隠れていても,包皮がスムーズに移動して亀頭を露出できれば,包茎ではありません。
真性包茎と仮性包茎
みなさんもよくご存じの真性包茎や仮性包茎という呼び方,実は国際的に認められた正式な医学用語ではありません。でも医療関係者も使っています。
真性包茎は,医学的な解釈で説明したような包茎と同義で,亀頭が包皮に覆われて露出できない状態です。日本で使う“真性”は国際的には不要です。この(真性)包茎では,包皮内を洗うことができないので,恥垢(皮脂腺の分泌物や尿中の塩類が一緒になったもの)がチーズ様の塊となって溜まり炎症や感染を引き起こしやすくなりますし,性行為のときには皮膚が引っ張られて痛みを伴います。また,包皮輪が極度に狭い場合には,ちょうどホースの先を押しつぶして水を出すとホース内の圧が高くなり,ときには水道の蛇口からホースがはずれてしまうことがあるように,排尿に過度の腹圧が必要となってくるので,膀胱や腎臓に悪い影響を及ぼすことがあります。そのため,何らかの治療が必要な状態です。
一方,仮性包茎は,亀頭が包皮に覆われていても亀頭の露出が可能な状態のことです。この状態は医学的に何ら問題がないので国際的には特別な名称があるわけではありません。強いていえば,average normal adult human penis(平均的な通常の大人の陰茎),natural penis(自然な陰茎)です。ただ,日本では,仮性包茎があたかも病的な状態であったり,恥ずかしい状態であるかのように誤解している人が多いようです。泌尿器科の診察室では外性器の診察を行うことがあり,下着を下ろしてくださいというと,ほとんどの人は,まずパンツの中に手を入れて,包皮を下げ亀頭を露出した状態にして,それから下着を下ろします。「俺は仮性包茎ではありませんよ」とアピールするかのように。
仮性包茎はnatural penis。
”ナチュペ”と呼びましょう!
そもそも“仮性”という言葉が誤解を生む原因です。広辞苑をひけば,“仮性”とは「病因は違うが,症状が類似する病名に冠していう語」とあります。仮性包茎といわれれば,あたかも病的状態のように勘違いしてしまっても仕方がありません。英語では,false phimosisやpseudo phimosis。“false”は「にせの」,「嘘」,“pseudo”は「偽りの」,「にせの」の意味です。すなわち日本でよく使われる仮性包茎は,「治療の必要な(真性)包茎に似ているけど,似ているだけで実は(真性)包茎とは違うにせの状態だよ」ということなのです。だから,治療の必要もないし,恥ずかしがることもないのです。
それから,いつも亀頭が露出してる人もいますよね。ムケチンの人。それがもっとも男らしい姿ではありませんので念のため。英語ではcircumcisioned penis(手術したペニス)と呼ばれています。
嵌頓包茎
中学校の入学式を翌日に控え,父親に連れられて泌尿器科を受診した男子。本人は「排尿のとき痛い」と言っているのですが,お父さんが,「おまえ何ばしたつか(何をしたのか),正直に言え」とやや強めに問い質すと,「3日前にペニスを触っていたら,むいた皮が戻らなくなって,だんだん腫れてきた」とうつむいて話しました。診察をすると亀頭が露出した状態で,包皮内板が大きく腫れ上がっています。痛そうです。
このような状態を嵌頓包茎と言います。包皮輪がまだ十分に広がっていない場合,何とか亀頭を露出できるのですが,反転した包皮は包皮輪のところでくびれを作ります。その状態で放置するとくびれによって皮膚が締め付けられ,その下の静脈やリンパ管が圧迫されてしまいます。この圧迫による循環障害で,くびれの締め付け部より先の方に血液やリンパ液が溜まってしまい,それが原因で浮腫(むくみ)を生じます。一旦そうなると,包皮輪の締め付けはますます強くなり,包皮内板の浮腫(むくみ)がさらにひどくなります。
ペニスを触っていてこうなったわけですから,本人は,「どうしよう,なにかまずい状態になったぞ」と思っても,なかなか家族に相談できません。そうこうするうち腫れはひどくなり,「おしっこするとき痛い」とか,「おちんちんの先が痛い」とか言って,泌尿器科を受診することになります。でも,ご安心ください。ここは泌尿器科医の腕の見せ所。いろいろな手を使って,包皮を戻してご覧に入れます。ただ時間が経ったものほど戻りにくくなり,切開が必要になる場合もありますので,もし包皮が戻らなくなったときは,なるべく早く泌尿器科を受診してください。それから,嵌頓包茎のような緊急事態にならなくても亀頭を露出したとき包皮輪のくびれがあって締め付けられていると感じている人は,一度泌尿器科で相談しておいた方がよいかもしれません。
仮性包茎のウソ・ホント
みなさんを惑わす,巷にあふれる仮性包茎悪者論。本当なのでしょうか。
手術を勧める広告は,仮性包茎があたかも悪者であるかのような誤解を招くメッセージで包茎手術へ誘導しています。期間限定手術料金3万円が,結局数十万円を支払わなければならなくなった人もいるようです。くれぐれも包茎手術商法にはご注意ください。
日本で言う仮性包茎はnatural penis(自然な陰茎)です。決して恥ずかしい状態ではなく,女性に対してコンプレックスに思う必要もありません。女性から嫌われることはありませんし,結婚もできます。お忘れなく。
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