男の生理現象である朝立ち,その重要性は現代よりも江戸時代の方がはるかに注目されていたようで,朝立ちもしないようなくたびれた男は仕事もできないから金を貸すなといわれていたそうです。
EDは心血管疾患のカナリア
心臓から送り出される血液は動脈と呼ばれる血管を通って体の隅々まで運ばれていき,血液に含まれる十分な酸素や栄養素で体の臓器は良い状態に保たれます。例えば手首の内側に指を当てると,ドクンドクンと脈打つ様子を感じることができます。これは比較的体表に近いところにある橈骨動脈の血液の流れを触知しているのです。もし,何らかの原因で血液の流れが悪くなれば,十分な酸素や栄養素を届けることができなくなります。それをそのままにしておけば臓器の状態が悪くなり,いろいろな症状を引き起こすことになりかねません。
体の中の動脈の太さは,場所によって違いがあります。ペニスに血液を運ぶ陰茎動脈の直径は1〜2mm,心臓に血液を運ぶ左冠動脈近位部は3〜4mm,脳に血液を運ぶ内頸動脈は5〜6mm,足に血液を運ぶ大腿動脈は6〜8mmです。水道管を想像すると理解しやすいと思います。長年使用していると水道管にも経年劣化が起こります。錆び付いたり,内側に水垢が付着します。そうなると,太い水道管の本管ではそれほど影響が出なくても,各家庭に引いてある細い水道管では流れが悪くなってきます。そのとき家庭に引いてある水道管だけを交換したとしても本管にもそれなりの劣化があるはずですから,遠からず本管の流れも悪くなり,もっと大がかりな修復作業が必要になります。動脈も同じです。動脈硬化の症状は細い動脈の部分から現れます。
勃起は,ペニスのなかにあるスポンジ状の構造をもつ海綿体に陰茎動脈から流れ込んだ血液が充満して,ペニスが膨張し硬く変化することです。この勃起に時間がかかったり,勃起しても途中で萎えてしまったりして満足のいく性交ができない状態がED(erectile dysfunction,勃起障害)です。陰茎の血管に動脈硬化が起これば,血管の柔軟性が失われて血液の流れが悪くなり,海綿体が十分に拡張することができずに EDという症状をもたらします。つまりEDとは,ペニスの陰茎動脈の動脈硬化が起こっているかも知れないという知らせです。
明らかな冠動脈疾患のないED患者の人たちに負荷心電図検査を行うと,8〜56%で冠動脈疾患の変化が見られるという報告があります。また,明らかな冠動脈疾患のある人の42〜75%にEDがみられると報告されています。さらに,EDを自覚した2〜3年後に冠動脈疾患の発現が多いといわれています。ペニスに血液を運ぶ陰茎動脈の直径は1〜2mm,心臓に血液を運ぶ左冠動脈近位部は3〜4mmです。細い血管の臓器に症状が出れば,太い血管の臓器にも悪影響が出てきている,さらに,太い血管の臓器に症状が出れば,細い血管の臓器の症状を併せてもつ人が多いという結果です。
EDは,血管の動脈硬化で起こる最初の血管病の症状です。自分で気付くことのできる生活習慣病でもあります。そして,それはペニスだけの問題ではなく,心臓や脳の血管,全身の動脈にも動脈硬化が起こりつつあるということを示しています。カナリアが泣き止むように,ペニスが静かになれば・・・。まさに,EDは心血管疾患のカナリアなのです。
- 加齢
- 喫煙
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 肥満
- 運動不足
- うつ
- 慢性腎臓病
- 年齢(≧60〜65歳)
- 喫煙(≧1日20本)
- 高血圧(≧140/90mmHg)
- 糖尿病(空腹時血糖≧126mg/dl)
- 脂質異常症
- 肥満(BMI≧25)
- 座りがちなライフスタイル
- 若年で冠動脈疾患の家族歴
EDのリスクファクター(危険因子)と心血管疾患のそれは,とてもよく似ています。もし,EDで困っている人が,ED以外は無症状で,リスクファクターが3つ未満ならばED治療だけでもOKです。けれども胸痛や胸部圧迫感の症状を自覚していなくても,リスクファクターに3つ以上当てはまれば,ED治療をするだけでなく,心血管系の働きを評価する検査を受けた方が良いでしょう。
朝マラを見れば命の泉湧く
レム睡眠時に起こる勃起,その回数は生後すぐでも,青年期でも変わらないといわれています。ただ,その持続時間はテストステロンに比例し,思春期になりテストステロンが増加すると,個々のレム睡眠における勃起時間が延長してきます。テストステロンレベルが最も高い20歳代では,寝ている時間の40〜50%は勃起していることが知られています。そんなに勃起していれば,毎朝テントが張っているでしょう。やがて,年齢と共にテストステロンが減少してくると勃起時間は短くなり,早朝勃起に気付くことも少なくなってきます。
動脈の血管内皮からはNO(一酸化窒素)が産出されています。NOは,血管を広げる作用があり,ペニスでは血流を増やして勃起させる,気管を広げる,胃壁を守る,腎臓の働きを助ける,腸の活動を整える,などの働きがあります。酸化ストレスは血管を傷つけ動脈硬化を起こします。そして,動脈硬化が起こればNOの産出が少なくなります。また,テストステロンには酸化ストレスを下げる働きもあるので,テストステロンが減少すると酸化ストレスが増えて動脈硬化が進み,NOも減少します。その結果,ペニスや気管や胃,腎臓,腸などに悪い影響が出てきます。
男性の体を良い状態に保つためには,①酸化ストレスを増やさないこと,②テストステロンを減少させないこと
これらによって血管を良い状態に保つことが重要です。
朝起きたとき朝立ちがあれば,俺はまだ元気だぞと安心できるとです
90歳代の男性の言葉です。パートナーはいないけれど,「就寝時にバイアグラを服用すると翌朝朝立ちが確認できる」と定期的に処方を求めて受診されています。
近頃は朝立ちがさっぱり。いっちょん元気がなかっです
一方,このように話す人もいます。
その意味を教えられている訳ではありませんが,男性のほとんどは朝起きたときの朝立ち,早朝勃起を男としての元気のバロメーターと考えています。そうです。早朝勃起があるということは,テストステロンがそれなりに分泌されており,一番細い血管の状態もそれほど悪くはなく,体の錆び付きが少ないということです。逆に朝立ちが少なくなれば,それは,テストステロンが減少していたり,動脈硬化がすすんだり,体にガタが来ている兆しです。
朝立ちは男の基本的な生理現象です。
それを見れば男として自信が湧いてきます。まだまだいけると気力が湧いてきます。
“朝マラを見れば命の泉湧く”なのです。
朝マラの立たぬ男は・・・
テストステロンが低下することによって女性の更年期障害と同じような症状で苦しんでいる男性がいることが明らかになり,男性更年期として注目されるようになっています。メディアにもLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)として取り上げられることが多くなり,名前を耳にしたことがある人もいるかもしれません。男性ホルモンであるテストステロンが低下し,そのために起こる生化学的異常とそれに伴い出現する症状の症候群です。男の一生のうち,とくに中年期から初老期にかけては,体力や活力の衰えを自覚するのと反比例して家庭や職場での責任が増加してきます。それがストレスとなり,ほてりや不眠,うつ状態,性欲低下や勃起障害などの症状が起こりやすくなります。早朝勃起の減少も症状の一つです。
朝マラの立たぬ男は,ED(性的刺激による勃起が不十分)なのかも知れません。テストステロンが減少して,体が錆び付いているのかも知れません。ストレスの多い生活をしているのかも知れません。気力が低下して仕事がバリバリできていないのかも知れません。近い将来心血管疾患を発病するかも知れません。江戸の諺のように,朝マラの立たぬ男に金を貸すのは心配です。
早朝勃起(朝立ち,朝マラ)は男の基本的な生理現象です。早朝勃起が減少したことを「年のせい」と簡単に考えて放置せず,そんなときは医療機関(泌尿器科)でテストステロンを測定してみましょう。
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