体毛も二次性徴のひとつ

口ひげが濃いの、どう思う？

中学の修学旅行のバスの中でのこと。“みんなの質問に答えます”というコーナーがあり，それぞれがガイドさんへ尋ねたいことを匿名でカードに記入しました。「何歳ですか？」，「芸能人では誰が好きですか？」，「趣味は何ですか？」，「食べ物何が好きですか？」などの中学2年生のたわいない質問に答えていたガイドさんが次の質問を目にしてはにかんだ様子でした。そして，照れくさそうに

「口ひげが濃いの，どう思うかって？う〜ん，男らしいんじゃない」

これは私の質問です。口の周りがひげで黒っぽくなり，妹から泥棒みたいといわれて気にしていたのでした。

思春期になると陰毛，腋毛が生えてきます。男子では胸毛や口ひげが目立つようになる人もいます。これらも二次性徴のひとつです。

ヒトの軟毛（うぶ毛）は，部位によって異なる時期に硬毛（これ以上変化しない終末の姿なので終毛とも呼ばれます）へと変化します。

この軟毛から硬毛への変化が，思春期に分泌される男性ホルモンと関係があるかどうかによって，毛は性毛と無性毛にわけられます（女性にも，作用が弱いながら男性ホルモンがあります）。さらに性毛は，男女両性にみられる両性毛とおもに男性にしかみられない男性毛にわけられます。

体毛の毛乳頭という部分には男性ホルモンを受け取るレセプターがあります。両性毛は，このレセプターに男性ホルモンであるテストステロンがそのままの形で受容されて硬毛化が起こり，男性毛は，テストステロンがジヒドロテストステロンに変化して作用することで硬毛化が起こります。ジヒドロテストステロンはテストステロンより男性ホルモン作用の強いホルモンですが，これが少ないと男性毛は増えません。

思春期に生えてくる陰毛や腋毛は男女どちらにも生えますので両性毛です。「あれ，なぜ女性がテストステロン(男性ホルモン)で硬毛化するの」と疑問に思われたかもしれません。女性にも，男性と比べると少ない量ですがテストステロンがあり，思春期になると増えてきます。これによって硬毛化が起こるのです（テストステロンの基準値：男性225〜1039ng/dl，女性 33〜126ng/dl）。

ビキニタイプのパンツをはいた時，女性はパンツに陰毛が隠れますが，ほとんどの男性ではパンツからへその方へ陰毛がはみ出しています。陰毛上部や胸毛，ひげは，ジヒドロテストステロンによって硬毛化する男性毛です（ジヒドロテストステロンの基準値：男性 0.20〜1.00ng/ml，女性 0.05〜0.30ng/ml）。そのため，ひげや胸毛，“ギャランドゥ”とも呼ばれることがあるへそまでつながる陰毛（陰毛上部）は，男性ホルモンがそれなりの量で体内に分泌されていることの現れになるので，かつては男らしさの象徴といわれていました。

バスガイドさんがはにかんだ理由は，中学2年生に男への変化を感じたからだったのかもしれません。

なお，男性毛が少ない男性もいます。「そんな人はきっと男性ホルモンの量が少ないので男らしくないんだ」と思ったかもしれませんが，そうではありません。もちろん，男性ホルモンが少ない人には男性毛は生えませんが，毛乳頭のレセプターが元々少ない人では，男性ホルモンが十分にあったとしても男性毛はあまり生えません。

体毛が生えてきません

ところで，インターネットの質問サイトに寄せられた体毛に関する相談を紹介します。

「20歳の男性です。髪の毛は普通ですが，体毛が薄く，ひげも生えませんし，腋，陰毛も生えてきません。本当に小学生みたいな体です。こんな男でも女性は相手にしてくれるでしょうか」

　腋毛や陰毛が生えていないということは両性毛が生えていないということです。二次性徴が発現していない思春期前の状態のようです。何らかの原因で男性ホルモンが増えていないのかもしれません。しかし，検査をすすめる回答は皆無で，「毛むくじゃらよりツルンツルンの方がいいですよ」，「大変うらやましいです」のような，コンプレックスに思う必要はないと励ます回答が多数寄せられていました。

　男性毛の魅力も今は昔，体毛は薄い方が好まれ，男性でも脱毛をする昨今では，体毛の分布異常から医療機関を受診することは難しくなってきているようです。

川内康範さんの耳毛はすごい

　2008年4月6日「生涯助っ人」の人生を終えられた作詞家の川内康範さん。生前，おふくろさん騒動でテレビに登場されているお姿を見て，あの「耳毛」に注目した人も多かったのではないでしょうか。あれだけ多くて長ければ，ちょっと迫力あって格好良いですよね。

＊「おふくろさん騒動」：作詞家・川内康範さんが作詞した楽曲「おふくろさん」に、森進一さんが無断で前奏パートを付けて歌唱したとして、2007年に発生した騒動

「長寿の証，達磨大師にあやかってのばしている」とお話になっていたそうです。

　耳毛が硬毛に変わる時期は45歳頃です。そして耳毛は男性毛です。男性毛は，前述したようにジヒドロテストステロンが作用して硬毛化します。すると，あんな立派な耳毛の持ち主である川内康範さんには，男性ホルモン作用の強いジヒドロテストステロンが多かったのだろうと想像できます。筋を必ず通し，「喧嘩康範」と異名をとるほど妥協しなかったと言われる性格は，男性ホルモンの多さとも関係したのかもしれません。

チョーさんの胸毛　男らしい

読売ジャイアンツの終身名誉監督長嶋茂雄さん、現役時代には上半身裸でバットの素振りをする様子がテレビで放送されていました。それを見たファンが「キャアー、チョーさん、胸毛があって男らしい！」。

胸毛は男だけに生える男性毛。男性性の象徴です。素振りと汗と胸毛で男性性を強調すれば、周りの人へは「男」のアピールになります。