私の住む街の市役所では、多目的トイレを「だれでもトイレ」と表示し、虹色のハートマークを付けていました。性は一色ではなく多様であるということを表すレインボーフラッグは、LGBTの象徴です。だからLGBTの人への配慮をアピールしたつもりだったのでしょう。しかし…。
多くの場合、男の体を持った人は自身を男と思い、女の体を持った人は自身を女と思っています。体と心の性別が一致し、異性が恋愛の対象になります。ところが数は少ないながら、女が女を恋愛対象にするレズビアン、男が男を対象にするゲイ、男女を対象にするバイセクシュアル、体と心の性別が一致していないトランスジェンダーの人たちがいます。それぞれの頭文字を取ったLGBTはそんな性的少数者の総称です。
レズビアンやゲイ、バイセクシュアルの人は、体と心の性別が一致していることが多く、それぞれの性別と同じ表記のトイレを使うことに苦痛も支障もありません。だから「だれでもトイレ」を使う必要がありません。
トランスジェンダーの人は、例えば体の性別が男でも心は女なので、本心は女性用トイレを使いたいのですが、なかなかできません。男性用トイレは苦痛を感じます。だから「だれでもトイレ」はトランスジェンダーの人が使いやすいだろうと思われがちです。でも実は、当事者はレインボーマークの付いたトイレを使うことでLGBTと知られるのではないかと恐れ、使うことができないのです。
LGBTに配慮したつもりの「だれでもトイレ」は、レインボーマークを付けたばかりに、かえって当事者が使いづらくなってしまいました。そもそも多目的トイレは性別に関係なく使用できるので、わざわざマークを付ける意味はありません。最近やっと取り除かれたようです。
大多数の人の性のありようが大切なように、LGBTの人のそれも同じく尊重されるべきものです。誤解や偏見を解消するためには、性的少数者としてひとくくりにするのではなく、LGBとTの違いを理解し、それぞれの悩みや困り事に寄り添うことが必要です。
(寄稿:2020/03/09付 西日本新聞朝刊)
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