「受け入れ側の準備ができとらんのに、自分一人の欲求だけば優先することはできまっせん。治療ばやむるごとしました」。今まで熱心に治療を続けてこられた78歳男性の突然の宣言でした。
男性の性的能力は加齢とともに低下していきます。性欲が低下し、勃起しにくくなり、精液の量が減って、射精時の勢いもなくなります。若いときと比べて早く走れなかったり、疲れやすくなったり、回復に時間がかかったりする身体的変化と同じで、疲れてうまくいかないことがあります。当然の生理的な変化です。
そうは言っても、日本性科学会の2000年調査によると、60代男性の53%、70代男性の25%が、パートナーとの性交を伴う愛情関係を求めています。欲求はあっても、実際に性交を行っている男性はそれより少ない割合です。そのため性的能力、特に衰えた勃起能力を復活させたいと望むのが男心かもしれません。今はバイアグラなどのED(勃起障害)治療薬を適切に使うことで、期待に応えられるようになっているので、ご安心ください。
ただ、女性の気持ちはどうでしょうか。性交を伴う愛情関係を求めている女性は60代が20%、70代が10%。男女で大きな違いがあります。シニア女性の多くは、性交以外のスキンシップや精神的いたわりを求めていますが、実際は60代の39%、70代の25%が月1回以上の性交をしているという結果でした。気乗りはしないけど「相手が喜ぶから」という理由もあれば、断ると「不機嫌になるから」という場合もあるそうです。
加齢による身体的・精神的変化によって、男女ともに性交への欲求にも変化が表れます。それぞれの気持ちが若いときのままと思ったら大間違い。お互いの欲求や体調に配慮し、折り合いを付ける努力が必要です。冒頭の男性も、パートナーとの気持ちのすれ違いに気付いて、治療中止を決心されたのでした。
愛情関係を求めることに年齢は関係ありません。いくつになっても、その時々に、それなりにです。相手に気を配り、いたわった上で性的能力を補いたいときは、泌尿器科にご相談ください。
(寄稿:2020/07/27付 西日本新聞朝刊)
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