私が若いころ勤めていた福岡大病院泌尿器科には、身長180センチ超、体重90キロ前後の巨漢医師が3人。科対抗の相撲大会でもあれば、優勝間違いなし。当時60キロの私は、彼らからはじき飛ばされないよう用心していたものです。
肥満は体脂肪が過剰に蓄積された状態です。日本肥満学会は、BMI<Body Mass Index=体重(キロ)÷身長(メートル)÷身長(メートル)>が25以上の人を肥満と判定しています。
肥満の主な原因は過剰なカロリー摂取と運動不足。遺伝も関与しています。同じ食事をしても、肥満になる人もいればならない人も。だからといって、遺伝だから仕方がない、肥満も個性、と放っておけば健康を害します。BMIは22が最も病気にかかりにくく、25以上は生活習慣病のリスクが増加し、大腸がん、乳がんなどを発症しやすくなります。22から離れるほど死亡率も高くなります。
肥満の女性は妊娠しにくいことが知られていますが、肥満の男性も男性ホルモンのテストステロンが低下し、精液量や精子数も減少します。肥満は男女ともに不妊の原因です。さらに最近の研究で、男性が肥満になると、自身の精子の遺伝子に変化が起こることが報告されました。この変化は食欲や脳の働きに関連していて、子どもが太りやすくなったり、子どもの脳の発育に影響が出たりする恐れがあります。肥満はその人の健康だけでなく、子どもへと伝わる可能性がある重要な問題なのです。
幸い減量をすると、数週間でテストステロンが増え、精液量や精子数も増加します。肥満解消後1年たつと、精子の遺伝子変化も正常化していきます。
肥満は遺伝3割、生活習慣7割。BMI25以下を目標に、カロリーを控えて1回20分以上の運動を週3日以上行いましょう。「精子の数なんて俺には関係ない」という人も、テストステロンが減れば元気が出なくなりますよ。
かつての巨漢医師はすっかりスリムに。現在の私は73キロで、はじき飛ばされる心配がない体重になりました。BMIは24・1。辛うじて目標をクリアしています。
(寄稿:2019/08/05付 西日本新聞朝刊)
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