「先生、競争ね」。宴会の時、同じタイミングでトイレに入ろうとした看護師さんから声を掛けられました。その店は、男女共用の個室トイレが廊下に並ぶ、今では珍しい造りです。医師になって間もない20代、まだまだ排尿に勢いのある頃のことです。
男女の排尿を比較したデータによると、通常の排尿量の250ミリリットル前後であれば、平均排尿時間は約20秒。あまり男女差はありません。ところが排尿量がそれ以上になればなるほど、尿の勢いに限りがある男性は、排尿が終わるまでの時間が長くなります。一方、男性より尿の勢いがある女性は、排尿量が増えても排尿時間はほとんど伸びません。男女差が出てきます。
そうであっても排尿前後はチャックの上げ下げで済む男性と違い、女性にはいろいろな手間が必要です。実際に1984年当時の調査では、小便器を使用している平均時間は男性が約30秒、女性が約90秒という実測結果があります。負けるはずがありません。
ところが用を済ませてトイレを出ると、すでに彼女は廊下に。「わたしの勝ち!」。笑って宴会場へ戻っていきました。がくっ。
敗因はお酒です。勧められるままに飲んでいました。飲酒量が増えると尿意の感覚が鈍くなり、排尿の勢いも低下します。そのため多量の尿がたまっていることに気付かず、腹圧をかけないと出にくい状態だったのです。排尿に影響が出るほどの飲酒は明らかに飲み過ぎです。ご注意ください。
最近のトイレ滞在時間は、男性はチャックの上げ下げと排尿時間ですから昔と変わりません。女性は従来の服の上げ下ろしに加え、洋式便器の便座を拭いたり、メールチェックをしたりして、平均1分54秒と長くなっているそうです。勝てるチャンスは広がりましたが、こんなことを競い合っても仕方がありません。
大切なのは、尿の出始めから終わりまでの排尿時間。男女とも30秒以内が目安です。時々、スマートフォンの時計で計測してみてください。もし30秒を超えることが多い場合は、排尿機能に異常があるかもしれません。
(寄稿:2019/01/28付 西日本新聞朝刊)
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